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その時その時楽しんでいるモノを、無節操に書き連ねています。 日常、ゲーム、手芸以外にも、お人形も普通に登場しております。 大きさ、メーカー、性別も様々、意志を持って話している時もありますから、苦手な方はご遠慮ください。 微温猫庭園というディーラー名で、イベントに参加しています。 写真の無断転載も禁止です。
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 八戒の家では、いつも悟浄のために冷蔵庫に小さなお皿を入れてある。
 それは、子供だからこそ楽しめる「摘み食い」用のお皿なのだ。
 ちっちゃな笹カマボコを1、2枚とか、チーズを二欠片。とか。
 そんな一口二口で食べられるモノをそっと乗せておき、悟浄が内緒でモグモグするのを八戒は楽しむのだ。
 その話を聞いた天蓬は、さっそく自分の家でも実行してみた。
 可愛い可愛い捲簾が、こっそりとモグモグしてる姿はそりゃもう可愛いだろうと思い、ムフムフと丸いカマボコを3、4つ乗せておいたのだ。
 それは、知り合いが旅行先から送ってくれたカマボコで、ピンポン球ぐらいのカマボコの中に、子猫ちゃん垂涎のツナやチーズ、マヨネーズなんかが具として入ってる素敵な品で。
 もらった瞬間、「捲簾にモグモグさせてあげなければ!」と天蓬は思ったのだった。

「さぁて、捲簾はモグモグしちゃってくれましたかね?」
 うふふv と冷蔵庫を開けてお皿を取り出した天蓬は、そのまますぐに首を傾けた。
「あれ?」
 皿を手に取ったまま冷蔵庫を閉め、やっぱり首を傾ける。
 捲簾は、とってもとってもお行儀のいい子猫ちゃんだ。
 天蓬の言う事や八戒の言う事もちゃんと守るし、弟の悟浄の面倒もちゃんと出来る。
 だけど、時々天蓬にだけは甘ったれちゃんという、そりゃもう可愛い子猫ちゃんなのだが・・・。
「あれぇ?」
 天蓬の持っているお皿の上には、ちょっとだけ囓られたカマボコ達が乗っかっているのだ。
 囓っている。という事は、コレが食べるモノだと知ったワケだし、尚かつ具がチラリと見えているから、自分が大好きな味だと分かっているハズだ。
 なのに、残している。
 そもそも、元野良の捲簾は、「食べられる事」がどれほど幸せで贅沢な事かちゃんと知っている。
 多少の好き嫌いはあるけれども、出されたモノは全部残さず食べる子猫ちゃんなのだ。
 ソレを、こうして一口ずつ食べ散らかす。というのはあまり考えられない。
「捲簾?」
 名前を呼んで、子猫ちゃんを捜すと、居間のソファの上で寝そべりクッションまみれでご満悦になっている。
「てんぽっ、どした!?あそぶかっ!?」
 自分が遊んで欲しいんだろう?と突っ込みたい所をぐっと堪えて、天蓬は持っていた皿を捲簾に差し出して見せた。
「コレ、どうして残しちゃったんですか?美味しくなかった?」
 問うと、ソファにチョコリとお座りしなおした捲簾は、プクプクほっぺをピンク色に染めて、ほわぁと目を細めた。
「それなぁ~、とーってもんまかった~v」
 味を思い出したのか、幸せそうにちっちゃい両手を頬に当てる。
「それじゃ、どうして残してるんです?」
「あのな、それな、とーってもんまいだろ?だからな、ごじょうにあげるんだ!あそびにいったときおみやげにするんだ!」
「捲簾・・・」
「きっとな、ごじょうもよろこぶぞ~。『にいちゃん、とーってもんまいな!』っていうとおもうんだ!」
 小さい子猫ちゃんは、野良の時、一人だった。
 でも、今は違う。家族が増えた。
 天蓬に拾われ、天蓬の従兄弟の八戒と知り合い、その飼い猫の悟浄とも知り合った。
 自分よりも小さな悟浄。野良の時、沢山沢山人間や同じ猫にいじめられて、やっと飼い猫になった時もまだちょっとビクビクしてた悟浄。
 そんな悟浄を、捲簾は『まもってやらなきゃ!だいじにしてあげなきゃ!』と思い、ソレを実行しているのだ。
 天蓬は、改めて手に持っていた皿を見る。
 おそらく、最初の一個を囓った瞬間、『ごじょうにもあげなきゃ!』と思ったのだろう。
 それ以外のカマボコは全て、小さく小さく囓り取られているだけになっている。
「・・・捲簾、コレ、あんまり囓ってないでしょ?」
「だってっ、おれがいっぱいかじったら、ごじょうのぶんがなくなっちゃうだろ?おれな、ごじょうのおくちをこれでいーっぱいにしてやりてぇんだ!」
 あまりにも天蓬の予想通りの答えが返ってきて、つい、らしくもなく涙がにじみそうになった。
 この小さい子猫ちゃんは、誰に教わったワケでもないのに、自分より小さいモノに沢山与えようとするのだ。
 自分は大きいから我慢できる。もっと小さい悟浄にこそ、沢山上げなくちゃいけない。
 その優しい優しい思いが、この小さく囓られたカマボコに現れている。
「てんぽ?」
 隣に座り、キョトリとしている捲簾を片手で抱え上げ、膝の上にチョコンと乗せる。
 お皿のラップを外して、囓られた一つを摘み上げると、捲簾のお口へと運んだ。
「コレね、八戒と悟浄にも、頂いた袋ごと渡せるようにとっておいてありますよ。だから安心して、捲簾はコレを食べて良いんです」
「そうなのか?」
「えぇ、そうです。これは全部捲簾のモノです」
「ほわぁ~、そっかぁ~v」
 安心安心と、小さなお口がカマボコへ齧り付く。
「んふ~、これとーってもとーってもんまいなぁv」
「捲簾がこれほど喜んでると、くれた人もとっても嬉しいと思いますよ?」
「ありがと!っていっておいてくれるか?」
「勿論ですよ~」
 モグモグと頬を動かす捲簾に、天蓬はヒョイヒョイとカマボコをお口に運ぶ。
 内緒の摘み食いにはならなかったけれど、コレはコレで幸せなモグモグタイムだ。
 天蓬の指にちょっと付いちゃったマヨネーズを、ちゅっちゅして舐めている捲簾は、小さいのに心優しく懐深い子猫ちゃんだ。
「神様は、本当に凄い宝物を僕にくれたんだなぁ・・・」
 信心深くもなければ、神も信じているワケじゃないけれど。
 こうして奇跡のような存在の心に触れるたびに、何かに感謝してしまう天蓬だ。
「あとで、ごじょーのおうち、いこうな?」
「お土産持って、あ、他にもアイスでも買って行きましょうか?」
「うん!」
 ニコッと花が咲いたように笑う捲簾を、天蓬はギュッと抱き締め直したのだった。
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ハクナオヤ
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性別:
女性
職業:
旅人(食いしん坊グラファー)
趣味:
色々適当に
自己紹介:
ひたすら切り絵を練習中。編み物なんかもやってます。
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